「餠」という漢字は、左にある偏の部分を手描きだと「食」のように書くことが多いです。
しかしこうしてパソコンやスマホなどで書いてみると「食」の中にある「良」の、数か所の部分、形が違っているものがあったりします。
実はこのふたつの「食偏」どちらも正しいのです。
例をあげてみると、
- 「餅」 だと「食の下の方の横棒が二本に並ぶ」(游明朝)
- 「餅󠄀」 だと「食」の字に近い形(教科書体)
- 「餠」 でも「食」の字に近い形(行書体)
これらはすべて、そのフォントが違うだけです。まったく同じ文字なのです。
「餅」の漢字と「餅」の漢字がどっちも正しいという理由はなぜ?
それではこの二種類の偏のどちらを使用しても表すことができる「餠」。
手書きした場合に正誤の違いがあるのかないのか。これは疑問ですよね。
でも実はこれもまた、どちらでも正解なのです。
今度は文化庁の公式ホームページ、「国語施策・日本語教育」の中にある「国語施策情報」の「常用漢字表」を確認してみました。
(https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/pdf/joyokanjihyo_20101130.pdf)
こちらで見ると、基本の文字が、食偏の「食」の下が横棒二本だということがわかります。ですからこちらが「正しい文字」ということになります。
そしてその隣に[ ]書きで「食」の字のままの食偏の文字もあります。
これは、もとは手書きの楷書の場合と、そして明朝体で印刷したときの場合に違いがあったということ。
でも、印刷された形をそのままに手書きしてもいいのですよ。ということです。だから「許容」字体とされています。
ですので、手書きの場合も、どちらでも問題はないということになっています。
ですからこちらもまた、「正しい文字」に準ずる書き方ということで、テストなどでも基本的に正解として扱われます。
「餅」という漢字の右側も「餠」ちょっと違う漢字もありますが…
先ほどは「餠」の左側の「偏」についてお話しました。
しかし右側の「旁」の部分にも違いがみられることがあります。
「餅」という漢字の右側の「并」という部分が、縦に二つに分かれている「餠」という漢字もあるのです。
これは旧字体と新字体の違いです。
だからこれもまた、どちらをとっても文字としては正しいのです。
実際に、先ほど出してみた「常用漢字表」にもやはり( )内ですが、「餠」はあります。
ですからこれを、例えば公用の文書に使っても差し支えないということですね。
ただし、さきほどの場合とちょっと違うところもあります。
偏の場合はテストの採点にはまずかかわりがなく、どちらもたいてい正解として扱われます。
しかしこちらの場合は、「誤り」とされることがありますので、注意しなければなりません。
確認したところ、「日本漢字能力検定」の採点基準では、「旧字体での解答は正答とは認めない」とされているのです。
これはおそらくですが、文化庁の指針がもとになっていると考えられます。
樂ではなく楽、學ではなく学、というように、現代の一般的社会においてもっとも広く用いられていて、さらに今後も広く用いられてゆく文字を、いわばその文字の代表として使おう。
そういう意図で「通用字体」という漢字統一の改善指針があるのです。
ですので、このような旧字体は、現代ではだんだんとその使用頻度は減ってきています。
漢字のバリエーションが多い方が表現も豊かになり面白くはあるのですが、教育のしやすさや意味をより多くの人々に伝えるために使うには、漢字に多くの形があるよりも統一して、しかも簡便でわかりやすいものが望ましいということなのですね。
餅という漢字の成り立ちで由来は中国でも日本とでは意味が違う?
餅という漢字は、遠い昔に中国大陸の人たちのもとに生まれて、その後に日本に渡ってきて、日本の歴史とともに意味や書き順、形なども変化しながら今のように整えられました。
例えば、日本で「餠」という文字は「もち米を蒸し、ついて作った食品」を指します。おなじみの「おもち」ですね。
でも漢字の故郷の中国大陸では同じ「餠」という漢字は、「饼」(簡体字という省略された文字を使用しています)と書き、「小麦粉を原料とするパンやパンケーキのようなもの」のことを指すのです。
このように、文字というものはそれを使う人々の生活の根底にある文化や習慣、さらには時代などによって意味や形を変化させたりしてきました。
「餠」という漢字に形が色々あるのも、それと同じ理由からですね。
まとめ
「餠」という漢字の形の違いは、人々の間で使われてゆく上で便宜をはかるために出てきた違いで、どれも正解なのです。
そしてこれから先の時代にも、使用する人々の文化や習慣によって、漢字はさらに変化をとげてゆくことになると思います。
でも、1文字の中に意味をこめられる漢字は、意思伝達をするためにもとても便利な文字です。これからもずっと日本の文化や伝統とともに、大事に守り使っていきたいものですね。
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